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殺意-創元推理文庫

1
Malice Aforethought

舞  台-デボンシャー ワイヴァーンズ・クロス
1929~30年
犯  人-エドマンド・ビクリー博士(37歳)
発  表-1931年 75年前
フランシス・アイルズ-38歳

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<あらすじ>
ビクリー博士は、小さな田舎町ワイヴァーンズ・クロスの開業医。妻ジュリアは家柄も身長も夫より高く、ビクリー博士を足拭きマットのように扱っていた。
妻の目を盗んで村の娘たちと情事を楽しんでいたが、最近『屋敷』へ越してきたマドレイン・クランミアに本気になり、ジュリアに離婚を切り出す。離婚を拒絶された博士は、妻の殺害計画を立て始め・・・

 ☆☆☆

原題「Malice Aforethought」は、法律用語らしい。Yahoo辞書で見ると「予謀の害意」。見たことのない単語だったので調べてみたのだが、日常会話で使われる?”殺意”的単語とは区別して、作者はわざわざ法律用語を使ったものと思われる。
というのは、終盤は ある容疑で逮捕されたビクリー博士の裁判の様子が描かれ、裁判の判決をもって物語の幕を閉じる。
この章の表題「細菌劇」が象徴しているのだが、裁判が避けて通れない非常に皮肉な結末なので、法廷で使われている単語を本の題名にしたのだろう。
ただ、日本で売るには「殺意」の方が売れると思うけどね。
一応 原題を調べてみてよかった。

ビクリー博士は「なんともはや・・・┐( ̄ー ̄)┌ 」なオッサン。
家柄と身長と恐妻へのコンプレックスから、女遊びと妄想に逃避していたのだが、職業柄 人命を自由にできる知識と技術があることに気づき 自分には他人の生殺与奪の権利があるかのごときスーパーマンへ(本人の意識上)変貌を遂げていく。
最初は、寝る前の些細な妄想からなのだ。誰でも思いそうな「自分がイチローだったら」とか「宝くじが当たったら」とか。
それがあそこまで行っちゃうのは、コンプレックスと専門知識があったればこそだな。あ、あと身勝手な人格か。

作者が同年に「最上階の殺人」と「殺意」という、全く雰囲気の異なる作品を発表しているのは驚きなのだが、
一条ゆかりさんが愉快な「有閑倶楽部」ととんでもなく暗い「砂の城」を書く、魔夜峰央さんが怪奇漫画と「パタリロ」を書く、楳図かずおさんが「おろち」と「まことちゃん」を書く-んですものね。
モチロン、「最上階の殺人」が「まことちゃん」で、「殺意」が「おろち」です。

エピローグがあっけなさ過ぎるように感じるが、非常に効果的。
まさしく、「ええっ!」って感じ。

 ☆☆☆

Francis Iles

東京創元社 2002年1月18日 17版
訳:大久保 康雄


<ネタばれ・・・かな?>

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最上階の殺人-新樹社

1
Top Storey Murder[英国版の表紙]

舞  台-ユーストンロード近辺モンマスマンション
探  偵-ロジャー・シェリンガム(40歳)
秘  書-ステラ・バーネット
発  表-1931年 75年前
アントニイ・バークリー-38歳

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Photo by MainClimzon

<あらすじ>
昼食の約束でモーズビーの部屋を訪問すると、ユーストンロードのマンション最上階(4階)で老女が殺害されたとの連絡が入る。
昼食を抜いて、ヤードご一行と現場に駆けつけるロジャー。
モーズビーは、盗みの常習犯キャンバウエル・キッドの仕業と目星をつける。
犯人は4階窓からロープを垂らし逃走したと見られるが、ロジャーはロープはフェイクだと考え、マンション住人の内部犯行説を立てて独自の聞き込み捜査を開始する・・・

 ☆☆☆

面白かった!\(o ̄∇ ̄o)/
バークリー絶好調、ロジャー・シェリンガム エンジン全開!という感じ。
読み物の面白さに加え、バークリー発表作品順に読んできた流れから、なんと言いますか、
ロジャー・シェリンガムの花が今開いた!という ワーッとした上昇気流みたいなものを感じた。
推理はおいといて(泣)、小説としては、今まで読んだバークリーもので一番面白かった。
ロジャーもモーズビーも相変らずなのだが、ひょんなことから秘書として雇うことになってしまった 被害者の姪ステラ・バーネットが大変な女性で・・・
大変な美人だが色気は全くなく(「北極の氷を口説いた方がマシ」シェリンガム先生談)仕事一辺倒で、被害者の姪の癖に 事件に全く興味がない=先生の捜査の役に立たない-のである。
秘書なのでロジャーと過ごす時間が多く、ステラとロジャーのやり取りがこの小説の一番の見所だ。
愉快で気に入った言い回しがあった時は、ブログに書くつもりで付箋を貼っているのだが、
↓今回、付箋だらけになっちまった・・・
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もう、面白い表現・台詞だらけ。

ステラの婚約者(「貧相でチビな蛙」シェリンガム先生談)もロジャーの上を行く失敬極まりない青年。2人は幼馴染だそうだが、その地域で育つととんでもない失敬な人間に育つのだろうか。水質調査とかしてみた方がいいかも。ステラも蛙も、ロジャーが哀れになるくらい超ド急失敬。

推理の行方は・・・
当たったと言えば当たったし、そうでないと言えばそうだし・・・
犯人は逮捕されスッパリ解決したし、ヤードでのロジャーの株も更に上がったし、円満解決?かな。

ロジャー、今回も寅さんです♪
<ネタばれがあります>

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屏風のかげに-中央公論

Behind the Screen

舞  台-サンフラワー通り エリス家
発  表-BBCラジオ小説、雑誌リスナー1930年7月
アントニイ・バークリー-37歳

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<あらすじ>
医学生ウイルフレッド・ホープは、毎晩夕食後に 婚約者エイミー・エリスの家で過ごしていた。
エリス家では、1年前から有料のハウス・ゲストとしてポール・ダッドンという男を同居させていたが、彼が来てからエリス家の雰囲気が悪くなったようにポール氏は感じていた。
いつものように、家族が団欒する居間を訪れたポール氏は、居間の屏風のかげで血を流して倒れているダッドン氏を発見する。エリス家の人々は、そこに死体があることに気づいていない様子だった・・・

 ☆☆☆

BBC放送が、当時の人気推理作家を集めて週1回1章ずつ放送し、犯人当てクイズなども行ったもの。

第1章:ヒュー・ウォルポール
第2章:アガサ・クリスティー
第3章:ドロシー・L・セイヤーズ
第4章:アントニイ・バークリー
第5章:E・C・ベントリー
第6章:ロナルド・ノックス

3章までは、前作までを読み 独自に話を展開し、4~6章は3人が話し合い解決策を見つけ出してから書かれたそうだ。
アガサとドロシーは、自由度も高いが負担も大きかったわけね。
「屏風のかげに」の屏風は、なんと日本製の金と黒の大きな屏風。
その陰に、人々に知られず死体が横たわっているわけで・・・こわ~

この話の中で注目すべきは、おせっかいな隣人パースンズ氏
エリス家の隣人で、終日隣家を見張っており おせっかいで噂好きで図々しいオヤジ。
アガサ・クリスティーが、<お隣の小さなまだらさん>(肌色がまだらなので)としてコミカルに登場させ、
ドロシー・L・セイヤーズが、嫌になるくらいうっとうしさ全開に描き、
アントニイ・バークリー
「朝の光の中で見ると、まだらが一層目立つ
おせっかいな奴が立ち聞きしている」
話を聞いてくれとウザいまだらに対し 警部が思ったのは、
どぶ川だってあされば一つ二つの証拠が見つかる事がある」
で、朝食をよばれながら聞いた結果
「時間の遅れを償う価値のあるものは(目玉焼き2つ以外には)なんにもなかった
とこき下ろされ、
E・C・ベントリーには無視され、
最終回=ロナルド・ノックスの回で、なんとホープ氏と一緒に謎解き役に任命されるという活躍ぶり。

不気味な雰囲気で始まるのだけれど、ホープ氏の憂鬱については2章以降余り触れられない。
クリスティーがひょっこり登場させセイヤーズが肉付けした"まだら"が、とても特徴ある人物になってしまったため、本来 進行・探偵役のホープ氏をパースンズ氏が完全に食ってしまった。

殺されるダッドン氏に対して、周囲の人の思惑がいろいろと違うことから複雑な状況になっているのだが、推理物として特に面白いとは思わなかった。
やっぱり、この話の主役はまだらでしょー、まだら!

 ☆☆☆

中央公論社 「ザ・スクープ」昭和58年9月25日発行
訳:飛田 茂雄

ピカデリーの殺人-創元推理文庫

1
The Piccadilly Murder[英国版の表紙]

舞  台-ピカデリー・パレスのラウンジ 6月12日~7月
探  偵-アンブローズ・チタウィック(43~44歳位)
助  手-マウス閣下
発  表-1929年 77年前
アントニイ・バークリー-36歳

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<あらすじ>
ピカデリー・パレス・ホテルのラウンジでお茶をしながら、いつものように人間観察をしていたチタウィック氏は、上品な老婦人の連れの赤毛の男が、老婦人のコーヒー茶碗の上に手をかざすのを目撃する。
チタウィック氏が間違い電話に呼ばれて戻ってみると、老婦人は砒素を飲んで死亡していた。
赤毛の男=シンクレア少佐は、死亡した資産家の老婦人の甥で、唯一の相続人だった。
チタウィック氏の目撃証言で少佐は逮捕されるが、少佐の妻と友人の懇願により、チタウィック氏はなんと弁護側の探偵として活動を始める・・・

 ☆☆☆

今回の探偵助手は、当意即妙で元気で気持ちのいい青年マウス君。
その上マウス君は『公爵閣下』であらせられ、ヤードの副総監とも知り合いで、秘密裏に処理された毒入りチョコレート事件でのチタウィック氏の活躍を知っており、調査を依頼してきたような次第。

チタウィック氏は、ロジャー・シェリンガムと対照的に大変奥ゆかしい人物-ハッキリ言うと、おどおどした冴えないオッサンとして書かれている。
だいたい、検察側の超有力証人が弁護側の探偵になるなんて、周囲の押しの強さに押されっぱなしです。
毒入りチョコレートでは、確か「頭の良い羊のような顔をした~」と書かれていたと思うが、本作では もう すごい書かれよう!

誰も見向きもしないようなごくありふれた黒い小猫が~P-50
・そして自分がチタウィック氏のことを足もとの地虫程度にしか思っていないのを~P-115
・氏がもしもだったら、なついてでなく(断じてそうではない)完全な服従のしるしとして、卑屈に仰向けになって、相手の足もとに腹をさらしていたことだろう。P-124
・どうやらモーズビーは今ではチタウィック氏のことを単に芸をするペットというだけでなく、とびきり愉快な芸当を演じるペットとしてみなしているらしかった。P-256

ああ、あの人格者のモーズビー警部まで・・・
誰からも、人扱いされてません。
ソンケーしてくれてるのはマウス閣下くらいでしょうか(泣)

というわけで、主人公目線で本書を読むと、いっつも小バカにされていてあまり良い気分ではない。
しかし、特にムカついて嫌だった人が犯人だったので、大変スッキリした。
ざまーみろ(チタウィックか、自分・・・)

嫌いではあるけれど、今まで読んだバークリー作品の犯人の中で一番魅力的
犯人自身や周囲の状況についてとてもよく書き込まれているため、なぜこんな犯罪を犯したかだけでなく、なぜこんな人間になったかまでも理解できそうに感じる。「憎々しくて嫌いっ!」と思ってしまうほど、リアルに描かれているってことでしょうか。
↑これは、バークリーが目指していたことですよね!
本書末尾の解説文に、本書は、傑作の「毒チョコ」と「第二の銃声」に挟まれて冗長気味~と書かれているが、読んでいる時はそう思うんだけど、犯人が分かってみると 必要な運びだったと実感する。
決して冗長ではないと私は思う。
「第二の銃声」より、私はピカデリーのほうが好き。
あの人が犯人だと分かった上で、再度 犯人の心の動きを楽しみながら読んでみたいと思わせる作品だ。

登場人物にも作者にもボロカス言われているチタウィック氏ですが、ロジャーと違って 毒チョコに続き2連勝!
凄いです。

 ☆☆☆

Ambrose Chitterwick

東京創元社 2003年9月12日 3版
訳:真野 明裕

短編-名探偵/長編-迷探偵

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バークリー作品の発表年順に読む趣向なので、毒入りチョコレートのあとは
1929年-ピカデリーの殺人
1929年-瓶違い
1930年7月-屏風のかげに
1930年8月-完璧なアリバイ
1930年-第二の銃声

と読むつもりが、うっかり「第二の銃声」を読んでしまった。
「ピカデリーの殺人」と「屏風のかげに」はロジャーものではないので、ピカデリーに戻る前に、ロジャー短編の「瓶違い」と「完璧なアリバイ」を先に読む。特に、「完璧なアリバイ」は「第二の銃声」と同じ事件なので。

 ☆☆☆

1929年の「偶然の審判」と「毒入りチョコレート事件」
1930年の「完璧なアリバイ」と「第二の銃声」

は、それぞれ同一事件についての短編と長編
29年30年は誰もが認めるバークリーの当たり年
同じ事件を扱いながら、全く違う結末で、それぞれに読み応えのある短編・長編を書けるとは!
また そのケースが2つもあるとはっ!!

短編は、黄金期の名探偵の名に恥じぬ『名探偵ロジャー・シェリンガム』の鮮やかな推理に スカッとさせられる。
長編は、短編をただ引き伸ばしたものではなくて、ステレオタイプの推理小説に対するバークリーの実験?挑戦?が試みられ、大変読み応えのある作品になっている。
「毒入りチョコレート事件」では、6通りもの"ありえそう"な推理が披露され、
「第二の銃声」では、謎解きよりも 殺人に至るまで~捜査中~事件後-までの関係者の心理を克明に描いてみせた。

4作品ともそれぞれに素晴らしいが、長短編をセットで読まれると更に楽しめると思われます。
読む順番のおススメは、
「偶然の審判」→「毒入りチョコレート」
偶然の審判で名推理を披露したロジャーが、6人の探偵のうち4番目に登場。あとの2人の推理でどうなるの?とハラハラ。
「第二の銃声」→「完璧なアリバイ」
こちらについては「完璧なアリバイ」の記事で書きましたが、登場人物が多いので短編では説明不足になるところを、長編を先に読むことで補えます。それに、名探偵ロジャーでスッキリ終われるし。

バークリーは『どんでん返しの帝王』だそうですが、短編ではどんでん返す間が無いからか ロジャーはいかんなく名探偵振りを発揮。
長編は・・・
バークリーの絶頂期の作品だというのに、彼のメインの探偵ロジャー・シェリンガムは2作品とも失敗こいてます。
コレがバークリーらしいというのか、ロジャーらしいというのか。

┐( ̄ー ̄)┌ おやおや ┐( ̄ー ̄)┌

Photo by ZIG ZAG

完璧なアリバイ-HMM

1
Perfect Alibi

舞  台-田舎 6月
探  偵-ロジャー・シェリンガム
発  表-BBC発行「ラジオ・タイムズ」1930年8月号
アントニイ・バークリー-37歳

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<あらすじ>
田舎の警察長に就任した友人サー・ウィルフレッドに、ロジャーは殺人事件の話をせがむ。サー・ウィルフレッドは田舎に君が興味を惹くような話はないというが、ロジャーのしつこさに根負けして 若干の疑惑を感じていたオールフリ家の事故について話し始める。
地元の名家オールフリ家に滞在していた有名なプレーボーイ エリック・スコット=デイヴィスが、林間の空き地で後頭部を吹き飛ばされた遺体で発見された。
当時屋敷にいた家族・滞在客には、全員スコット=デイヴィス殺害動機があったが、犯行時間の15:17には全員にアリバイがあった。
第一発見者であり、滞在客のアリバイをたまたま証明することになった警官に話を聞きたいと、ロジャーは申し入れるが、彼は事件後すぐに亡くなっていたのだった。

 ☆☆☆

『第二の銃声』と全く同じ設定の事件。
それを、ロジャーのオックスフォード時代の学友の警察長が思い出話として語り、Armchair Detectiveのロジャー先生がその場で解決する話。
おそらく、ロ先生の最短記録なのでは?
短編だが、友人を困らせる会話にロジャーらしさがいっぱい出ているし、大変鮮やかに解決している。(第二の銃声とは違う犯人)
ハヤカワポケットミステリ「名探偵登場Ⅲ」には、『瓶ちがい』じゃなくて、本書の方を載せてほしかったなぁぁ。
初版当時、まだ本作品が発見されていなかったのかな。

本書と『第二の銃声』は、どちらの執筆が先なのだろうか?
私は『第二の銃声』を先に読んだが、『第二の銃声』を先に読んで→本書 が、より楽しめると思う。
この設定の特徴の1つは"全員に動機がある"ことで、長編『第二の銃声』では、各自の特徴あるキャラクターや殺したくなる理由が充分描かれているし、そこが読みどころでもある。
短編では、6人もいるキャラの人となりと動機に、サラッとふれる事しか出来ない。『第二の銃声』を先に読んでいれば、その2~3行の文章からもっと多くのイメージをわかせることが出来るので、より楽しめるのでは。
ま、ナンと言っても「名探偵ロジャー・シェリンガム復活!」の爽快感が味わえることでしょうか。
第二の銃声 : 完璧なアリバイ≒三振 : 満塁ホームラン♪

ロジャーにいじめられっぱなしのサー・ウィルフレッドのセリフ。
「さあて、ロジャー、最近の君は推理の達人と目されてるそうだね」サー・ウィルフレッドは無礼な笑い方をした。』P-140

 ☆☆☆

早川書房 『ミステリマガジン』No.444 1993年4月号
"名作短編発掘"コーナーP-131~141掲載
訳:大村美根子

「アントニイ・バークリーの作品世界 性格のパズル」トニイ・メダウォー著:佐藤定夫訳も収録

瓶ちがい-早川書房

1
The Wrong Jar

舞  台-バッキンガムシア州 マーストン
探  偵-ロジャー・シェリンガム(38歳)
発  表-1929年 77年前
アントニイ・バークリー-36歳

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<あらすじ>
マーストンに住むミセス・ブレイシーは胃を悪くし医者にかかっていたが、容態が急変して死亡。不審に思った医師の申し出により解剖すると、果たして急性の砒素中毒で、医師から処方された薬の瓶に砒素が混入されていた。
医師の処方ミスが疑われたが、警察は一転してブレイシー氏を逮捕する・・・

 ☆☆☆

26頁ほどの短編。
ロジャーが事件に関わるキッカケは、モレズビーがロジャーのところに遊びに来ていて、芳しい進展を見せないマーストン毒殺事件について
だって、あなたは、そういうたちのことを、ほじくるのが、道楽なんじやありませんか?
とけしかけたから。田舎の警察のことなので、モレズビー自身も関係ないんである。
で、ノコノコ出かけるロジャー。
短編だから、周囲もサクサク協力してくれてさっさと解決。
犯行手口は「ほぉぉ」と感心したけど、取り立ててどうという話ではない
ロジャーらしさもまったく無いし。(上のモレズビーのセリフ以外は)

巻末解説を読むと、ハヤカワの『名探偵登場』シリーズにバークリーの(ロジャーの)作品を載せたかったのだが、短編自体が少なく 無理やり載せたみたい。名作『偶然の審判』は、他のシリーズで掲載済みだったので。

特に終わり方が、なんかよー分からんと言うか締まらないというか。
ロジャーのセリフで終わるのは『偶然の審判』と同じだけれど、雲泥の差。ストーリー自体はツマラナイわけじゃないけど、終わり方が一番よくないように感じる。バークリーらしくないと言うか。

巻末解説にも、ロジャーの情報は無いし、ワタクシには余り益のない本であった。

 ☆☆☆

ハヤカワポケットミステリ No.252 「名探偵登場Ⅲ」 1993年9月15日 3版
編:早川書房編集部
訳:砧 一郎


Photo by ネグレクト

第二の銃声-国書刊行会

1
The Second Shot [英国版の表紙]
-A・D・ピーターズに-

舞  台-デボンシャー ミントン谷 1927年6月8日(水)~
探  偵-ロジャー・シェリンガム(36歳)
発  表-1930年 76年前
アントニイ・バークリー-37歳

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<あらすじ>
推理小説家ジョン・ヒルヤード氏の邸宅ミントン・ディープス農園で、余興に『推理作家は実際の事件でも謎を解決できるか』を試すための素人劇が演じられた。3人の推理作家が招待され、他の招待客が殺人劇を演じ、推理作家が解明するという趣向だった。
劇の進行中、被害者役のプレーボーイ・エリックが本当に射殺される。劇出演者全員に強力な動機があったが、最も現場近くにいたシリル・ピンカートン氏が最有力容疑者と見込まれてしまう。
ピンカートンは学友だったロジャー・シェリンガムに助けを求める・・・

 ☆☆☆

<ネタばれがあります>

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Arrival and Error

04/10/11(月)23:26に この「毒入りチョコレート」を冠するブログを始めて17ヶ月・・・
やっっっっっとっ 毒チョコの記事をアップできました!

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はぁぁ~ 一安心♪ ↑わるさーP38




バークリーの作品発表順に読むという趣向なので、1925年から始まって、やっと今 1929年の毒チョコに到達
ブログ開始は04/10だが、ジュンク堂でバークリーの本を一通り買いあさったのは03/秋、そのまま放置状態だったが、04年05年に出版されたものも買い揃えて 今年の4月に入ってから一挙に加速!!
4月~5月で9冊いっとります。

で、毒チョコのあとは本当は
1929年「ピカデリーの殺人」
なのに、間違えて1930年「第二の銃声」を先に読んじまった!
間違えたぁぁ

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ろじゃ「なにさらしとんじゃ、コルァ
す、すいません すいませんっ

毒入りチョコレート事件-創元推理文庫

1
The Poisoned Chocolates Case [英国版の表紙]
-S・H・J・コックスへ こんどばかりは彼も当たらなかったので-(←ロジャーのこと?)

舞  台-ロンドン 11月15日(金)~(ヴェインの18ヵ月後)
探  偵-「犯罪研究会」の6名

**************チャールズ・ワイルドマン卿
**************フィールダー・フレミング
**************モートン・ハロゲイト・ブラッドレー
**************ロジャー・シェリンガム(会長)
**************アリシア・ダマーズ
**************アンブローズ・チタウィック
発  表-1929年 77年前
アントニイ・バークリー-36歳

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写真の商品と本文は関係ありません。

<あらすじ>
ロジャー・シェリンガムは5ヶ月前に同好の志を集めて「犯罪研究会」を結成、その会の『犯罪学演習』として、スコットランド・ヤードが事実上投げ出した「毒入りチョコレート事件」に取り組むことにした。
「毒入りチョコレート事件」とは、
ユーステス・ペンファーザー卿宛に届いた試供品のチョコレートを たまたま居合わせたペンディックス氏が貰って帰ったところ、チョコレートを食べたペンディックス夫人が亡くなったというものだった。
ヤードのモレスビー警部を会に招いて調査状況を聞いた後、各自で1週間の調査、そして一日一人ずつ自説を披露していく・・・

 ☆☆☆

1冊の小説で6人の探偵の6通りの解答編が読めるというお得?な推理小説。
事件は、これに先立つ短編「偶然の審判」と全く同じ。
偶然の審判で鮮やかな推理を披露したロジャーの発表は4番目(↑上の順番)。ロジャーの後に2人の発表者がいるわけで、「どうなるんだろー?ロジャーの推理は偶然の審判と違うのかな?」と読み進むが---
ロジャーの推理は前作と全く同じであったが、決め手となっていた"賭け"の件も目撃証言も、次のダマーズ女史にあっさり覆される。
実に、アッサリと・・・
で、最終的に 前作とは違う犯人。

6人が6人とも"それらしい"説を披露する。
「偶然の審判」であんなに鮮やかに締めくくったのに、どうしてまたコレを書いたのか疑問に思う。
バークリーの"ひねくれ方"を考えると、「偶然の審判」が推理小説として好評(だったに違いない!)だったことに対して、
探偵(ロジャー)の推理も完璧ではなく
他にいくらだって推論は立つんだ

ということを、作者だからこそやってみせたのかな~。

推理作家のブラッドレーに
「お話したことは全部事実です。しかし、真相の全部をお話してはいません。技巧的な論証は、ほかの技巧的なものがすべてそうであるように、ただ選択の問題です。何を話し、何を言い残すかを心得ていさえすれば、どんなことでも好きなように、しかも充分に説得力をもって、論証することができるものですよ。ぼくは自分の書くどの作品の中でも、それをやっていますが、いまだかつて、書評家がぼくのずさんな論理に文句をつけたためしはないですね。」P-175 と言わせている。

いろいろなパターンが出来るという試みをしたことは、推理小説的に意義のあったことなのだろうが、6パターンの中で推理小説として一番良く出来てるのは やっぱりロジャーの説だと私は思うな。
今回の真犯人の方法では、不確実性が高過ぎる。チョコレートの到達ルートも、毒の注入量も。(この確実性について、ロジャーの説に勝るものはない)
犯人が間抜けじゃないだけに、信憑性に欠ける。
背景となった三角関係も納得しがたい。キャラタイプからいうと、ラクロの「危険な関係」みたいだが、本書のメルトイユ侯爵夫人は本書のバルモン子爵に本気になるかな?バルモン子爵は本書のトゥールベル夫人に本気になるかな???

ロジャー、今回は大変だったね。
犯罪研究会の会長として、事件よりも会の人間関係の心労が多く(泣)、ダマーズ女史には徹底的に叩きのめされるしね・・・
得意のおしゃべりもほとんど出来なかったし。
フォーエックスを1ガロンでも2ガロンでも飲んでくれっ


 ☆☆☆

東京創元社 2004年3月12日 28版
訳:高橋泰邦


Photo by RELISH

Albany

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ピカデリーサーカス周辺

『偶然の審判』の発表年について

創元推理文庫『世界短編傑作集3』の解説では"1925年"、同『毒入りチョコレート事件』の解説でも"1925年"になっている。
国書刊行会『第二の銃声』の解説では"1928年"。
イギリスのサイトで検索すると、たいてい"1929年"
『Pearson's Magazine Sep 1929』とハッキリ書いてあるところも。

「偶然の審判」の冒頭で 警部はオールバニー(orアルバニー)へ来ている。
ロジャーがピカデリーのオールバニーアパートへ引っ越したのはヴェイン(1927年)と絹靴下(1928年)の間で、「偶然~」は毒チョコ(1929年)の前だから 1925年ではないよな。

ロジャーのおうち Rooms at Albany 建築家ヘンリー・ホランド

事件が起こったのは11月15日(金)
この日が金曜日なのは、「万年カレンダー」でみたら1929年
(イギリスは1752年からグレゴリオ暦だそうだから、このカレンダーでいいハズ)

Photo by clef

偶然の審判-創元推理文庫

1
The Avenging Chance

舞  台-ロンドン 1929年11月15日(金)~2週間
探  偵-ロジャー・シェリンガム(38歳)
発  表-※1929年 77年前
アントニイ・バークリー-36歳

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ハミルトン四号♪



『ロジャー・シェリンガムは、あとになって考えてみて、
新聞が「毒入りチョコレート事件」と呼んだ事件は、
彼が出あったうちで、もっとも完全な計画的殺人
だと思うようになった。』
P-139



<あらすじ>
スコットランド・ヤードのモリズビー警部が、先週発生した難事件「毒入りチョコレート事件」について、ロジャーに相談に来た。
この事件とは、サー・ウィリアム宛に届いた試供品のチョコレートを たまたま居合わせたベリズフォード氏が貰って帰ったところ、チョコレートを食べたベリズフォード夫人が亡くなったというものだった。
ヤードでは、狙われたサー・ウィリアムの身辺を洗うも容疑者は浮かび上がらず、"犯罪狂の犯行"の線で落ち着こうとしており、ロジャーも特に興味を惹かれる事件ではなかった。
ところが、一週間後 偶然おしゃべり夫人に捕まったロジャーは、ベリズフォード夫人の性格と チョコレートを夫から貰うきっかけとなった出来事についての話を聞き、俄然調査を開始する…

 ☆☆☆

もう、何年前になるだろうか?コレが初バークリー。
大変意外な真相と、鮮やか過ぎるロジャーの締めくくり方に、完全にやられました。
犯人の頭の良さにやられて、それを暴いた探偵の頭の良さにもやられるというWパンチ。
短編なので、ロジャーの迷走もムダ口も一切無く、ホームズみたいな手際のいい調査と鮮やかな推理!
この作品で、いっぺんにバークリーのファンになったけど、探偵のタイプとしては特徴が無かったため ロジャー・シェリンガムの名前は記憶に残らなかった。

最後にもらす モリズビー警部の疑問はもっともで、
それに答えてロジャーが
『偶然』なんかに隙を与えるような間抜けじゃないよ。」P-168

素敵~♡ ロジャ~♡♡♡
「偶然の審判」しか読まなければ、
ロジャー・シェリンガム=世界一クレバーな男 ね!

ワタクシの中では、短編の最高峰。
誰にでもお奨めできる逸品です。

 ☆☆☆

※発表年について→別記事

1968年6月28日のTV放映
このひとがロジャーか~ John Carsonさん 

 ☆☆☆

東京創元社 『世界短編傑作集3』2000年3月24日 55版
編:江戸川乱歩
訳:中村能三


Photo by clef

絹靴下殺人事件-晶文社

4
The Silk Stocking Murders [英国版の表紙]
-親切にも暇をみてこの本を書いてくれたA・B・コックスへ-(←自分かよっ)

舞  台-ロンドン 2月頃(ウィッチフォードの18ヵ月後)
探  偵-ロジャー・シェリンガム(37歳)
発  表-1928年 78年前
アントニイ・バークリー-35歳

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<あらすじ>
デイリー・クーリア紙でコラムを担当するロジャーの元に、田舎の牧師から ロンドンへ働きに出て音信不通になった娘の消息を調べて欲しいという手紙が来る。
調べ始めてすぐに 娘は絹の靴下で首をつって自殺したことが判明、その後、自称女優・伯爵令嬢と絹靴下で縊死する事件が続く。
伯爵令嬢の手首に わずかながら縛られた後があったことから、スコットランド・ヤードのモーズビー警部が捜査を開始、最初の事件から調査していたロジャーと共同で捜査する事に同意する。
捜査が進まぬ中、さらに女優が縊死。最初の被害者の姉アンが、これ以上被害者を出さぬために自分をおとりにしてほしいとロジャーに申し出る・・・

 ☆☆☆

原題「~Murders」になってるように、動機不明の連続殺人事件。
絹靴下連続殺人事件-の方がいいのかな。

「ウィッチフォード」ではロジャーの方からデイリー・クーリア紙に売り込み、「ヴェイン」では編集長の方から特派員の依頼、そして今回はクーリア社内に自分専用の部屋を持つコラムニストになっている。
本業の作家業も順調で、オールバニー(ピカデリーにある貴族の館を増築した独身者用フラット)に引っ越し。
9ヶ月ごとに難事件を解決し、ご活躍ですね ろじゃー。

警察との関係も、ヴェインの時より親密?になっている。全くの独自捜査だったレイトンコート・ウィッチフォードが懐かしい。
殺人現場でのヤードの徹底した調査に初めて立会い、
「もし犯人が、自分がついさっきまでいた場所で行われている作業を垣間見たとしたら、逮捕を免れるという愚かな希望は一瞬のうちに消えうせるだろう」P-128 と感心。
中盤までモーズビーと親密に捜査を進めるが、ヤードは ロジャーの親しい友人が犯人という結論にいたり、後半は別々に捜査を進めることになる。やはり、バークリーの場合、最後まで警察と仲好しこよしではいかないのだな。
ロジャーは、被害者の姉アン・伯爵令嬢の婚約者の協力を得て、アンをおとりに犯人をおびき出す計画を実行。
『被害者の会』で結束するのは、ABC殺人事件みたい(ABCの方が後だけど)。
犯人は囮になど引っかからないとロジャーは踏んでいたが、アンは襲われ、その上犯人も取り逃がす。友人の逮捕期日を明日に控え、ロジャーはとんでもないひと芝居を打つことになるが…。

どこかの解説に書いてあったが、この作品はバークリーの出世作だそうで、この後 毒チョコ・殺意 等の傑作が発表されていくと。
確かに、前作までと全く違って すっごい緊迫感!!
友人の逮捕までに解決しなくてはならない-という制限と、ロジャーのとんでもない作戦のせいで。
もう、時間が無いのでムダ口たたいてる暇がないんである。
静かにしてくれ!いまぼくらはこれまでに-先の大戦中さえ-経験したことのない厄介な状況に置かれているんだ。それなのにきみは、アンがどうとか、ぼくがどう思っているとか、本気で考えているのかとか、なんだかんだと羊のようにメエメエ鳴いてばかりいる始末だ。」P-266
↑ロジャーの台詞よっ!"それはいつものアナタでしょう"と突っ込みたくなるような台詞を友人に言っているとは。
おかげ?でいつものロジャーのムダ口がほとんどないので、一般受けしたのかも~。
ムダ口はたたかないが、「警察のやり方では事件は解決しない」という持論にブレは無く、とんでもない大勝負に打って出る。
確かに、コレは警察には出来ないな、絶対。
逮捕期日が迫っていたとはいえ、良策ではない。
ただ、コレをせずロジャーの見事な推理だけをヤードに披露したところで、誤った犯人(友人)が逮捕され、連続殺人鬼が野放しにされたままになるのである。
副長官がロジャーに
「あなたが整然とした論法や洞察力溢れる推理で眩惑し、そうした方面から犯行を立証しようとしても、根拠のある事実で裏づけされていないかぎり、陪審員は相手にもしないだろう。法廷で必要とされるのは、巧妙な推理ではなく、ゆるぎない証拠だ」P-147 と言っているように。

例え、友人が逮捕されずヤードも真犯人を犯人だと納得したとしても、"ゆるぎない証拠"がないのでヴェインの二の舞にならざるを得ない。
ロジャーはヴェインでの失敗を踏まえて、こんな暴挙に出たのだろうか。

今回のラストの台詞は、前作ヴェインのと対になってる。
こういうのが、順番に読んでいく楽しみの一つ♪

ロジャーが女性の登場人物にちょっと惚れるが結局他人に持っていかれるパターンが寅さんチックで良いね。(ヴェインの時も、アントニイにもってかれる前 あの娘のこと良いと思ってたよね)

 ☆☆☆

晶文社ミステリ 2004年2月29日初版
訳:富塚由美

シシリーは消えた-原書房

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Cicely Disappears/The Wintringham Mystery
-1926/3/1~4/6 デイリーミラー紙に連載-

舞 台-サセックス州 9月上旬
探 偵-スティーヴン・マンロー(27歳)
助 手-ポーリーン・マナリング/ブリッジャー(42歳)
発 表-新聞連載1926年・単行本1927年 80年前
A.モンマス.プラッツ-33歳

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<あらすじ>
悠々自適の生活を送ってきたスティーブン・マンロー氏は財産を使い果たし、従僕としてレディ・スーザンのウィントリンガムホールで働くことになった。長年スティーヴンの従僕だったブリッジャーも庭師として同行する。
ウィントリンガムホールで新しい生活を始めるや否や、スティーブンが思いを寄せている裕福な女性ポーリーンが、婚約者と共に招待客として現れる。
晩餐後、おふざけで開かれた交霊会でスティーヴンが人間を消す呪文を唱えると、滞在客の一人シシリーが本当に姿を消してしまう。
翌日、レディスーザンの大量の宝石が紛失し、シシリーから「あの世から呼び戻すために、今夜も交霊会を開いて欲しい」と電話が。
シシリーのいたずらなのか事件なのか?混乱する館の庭で、執事のマーティンが死体で発見される・・・

 ☆☆☆

この本を購入しようか迷ってる方がいらっしゃったら、本屋さんで 巻末の森英俊さんの解説を読むことをお奨めする。
この作品の出版背景についての詳細情報と、バークリー及び当作品についての簡潔で適切な("適切"という言葉が適切でなければ、"冷静"とか"ニュートラル"とか)コメントで、分かり易く本書を位置づけてくれてると思います。

森さんが書かれている通り、
「新聞連載を意識して、より広範な読者を取り込もうとしたあらわれで(中略)本書はこの作者らしからぬ(?)非常に後味のいい作品である。」
ホント、推理ものというより爽やかなサクセスストーリー。

シシリー消失トリックについては、「チャンスがあったのはこの方法しかないじゃん」とすぐに思ったので、隠し部屋とか香水の残り香とか全然興味を惹かず、トリックは分かったから「動機が何か?」と「スティーヴとポーリーンは今後どうなるのか?」に興味を持って読み進む。
中盤、スティーブンがポーリーンの婚約者のたくらみを暴き、水戸黄門的爽快感を味わわせてくれる。もう、読んでる気分としてはミステリー風味の恋愛小説である。
と思いきや、自分が思っていたトリックはバークリーのミスリードにまんまと引っかかっただけと分かり、後半はまた推理的興味で読んでいくと 思いもよらぬ犯人という結末。
でもな~。
森さんも書かれているけど、この本の材料でアノ犯人に辿り着くのはなかなかに難しいと確かに思うよ。
共犯者の方は分かり易いが、主犯がねぇぇ
新聞連載時、犯人当ての懸賞があったそうだが、当たった人は何人いるのだろう?

レディスーザンとブリッジャーがいい味出してます。
自分的には、プリーストリー氏よりシシリーの方が面白かったな。

 ☆☆☆

原書房 ビンテージ・ミステリ・シリーズ 2005年2月18日 第1刷
訳:森 英俊

新聞発表時→A.B.Cox名義
単行本発売時→A.Monmouth.Platts名義(バークリーの別邸モンマス・ハウス・オフ・プラッツから)

ホームズと翔んでる女-早川書房

Holmes and the Dasher

酔いどれ評論『Jugged Journalism』 の一作品
P.G.ウッドハウスの文体で、シャーロックホームズのパロディ

発  表-1925年 81年前
A.B.コックス-32歳

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ワトソンが彼女を「チーズみたい」だって。



文体の問題、あるいはホームズとモダンガール-文藝春秋」の別訳。
ハヤカワ・ミステリ文庫「シャーロック・ホームズの災難[上]」に収録されているものも読んでみた。
この本はエラリー・クイーン編集で、アガサ・クリスティやO・ヘンリーなどの有名どころが書いたホームズのパロディ&パスティーシュ作品を集めたもの。バークリー以外の作家のホームズ?も楽しめる。

ドイル卿の作品かと思われるような本格的な作品など13編の中で、バークリーのホームズはやっぱり笑っちゃいます。
作品ごとにエラリー・クイーンの解説が付いているのだが、バークリーの解説には「偶像破壊的なパロディ~」と書かれている-全くそのとおりだね(笑)
文体ウッドワース・設定ホームズという二重の他人のふんどしなのに、かえってバークリーらしさが出まくってしまったというか。
そもそも、ホームズのパロディをウッドワースの文体で書こうと思うこと自体が、とってもバークリーらしいように思う。
文藝春秋の編訳者の方々も、マイナスなことばかり書かないで こういうこと書いて欲しいよ。着眼点がユニーク!とかさ~。

同じ作品なのだけれど、
ハヤカワの方はホームズ視点で、文藝春秋はウッドワース視点で楽しめるので、両方の本を読んでみてよかった。
訳は・・・あまり変わらないけれど、出だし部分・手紙の冒頭は文藝春秋の方が好きかな。なにせ文体はウッドワースの真似だから、ウッドワース作品と同じ訳者の方がいいかも。




[余談]
ホームズっぽい-ってどういうの?
依頼者がベーカー街を訪れた時、詳細を話す前に 依頼人の名前・職業・依頼内容などを当てて、依頼人とワトソンと読者を驚かせる芸当-指にインクが付いていたとか、泥跳ねがどこまで飛んでいるとか、早刷りの新聞を持っているとか-があると、ホームズっぽい~のかな?

 ☆☆☆

ハヤカワ・ミステリ「シャーロック・ホームズの災難[上]」に収録
1998年10月15日 9刷
編:エラリー・クイーン
訳:中川裕朗

文体の問題、あるいはホームズとモダンガール-文藝春秋

Holmes and the Dasher

酔いどれ評論『Jugged Journalism』 の一作品
P.G.ウッドハウスの文体で、シャーロックホームズのパロディ

発  表-1925年 81年前
A.B.コックス-32歳

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ほんの5頁ほどのパロディ作品。
コナン・ドイルが忙しくて、ウッドハウスがホームズを代筆することになったら・・・という設定でのお遊び。

登場人物は、ホームズ、ワトソンと 依頼人のシシー・クロスガーターズ。(←この人が、モダンガールなんでしょう)
いつも通り、ベーカー街に依頼人が相談に来て、そして 一晩で(←ココがポイントです)事件解決!!
「あのね、ミスター・ホームズ-なんだかすごく面倒なことになっちゃったんで、三時ころ相談に行ってもいいかしら。」
という依頼人の手紙から分かるとおり、文体もキャラも結末も砕けまくり
爆笑ということはないが、軽く笑える クスッと笑えるパロディだった。

 ---

ウッドハウスの「エムズワース卿の受難録」の巻末付録として収録されているものを読んだ。
バークリーの作品を読むためにこの本を購入したのだが、”ウッドハウスの文体をまねて~”とのことなので、先にエムズワース卿を読んでみた。
とてもおもしろくて、シリーズのほかの作品も読みたくなった。

で、いよいよバークリーかと読み進めていくと
バークリーの付録本文の前に
巻末付録「探偵小説とウッドハウス」という解説文と
ホームズとモダンガールについての「編訳者注」
があって、どちらにも芳しくない評価文が書かれている

ものすごテンション下げられた。

専門家がご覧になれば、色々言いたい事はおありなんでしょうけど、まずは予断なく読ませて欲しかった。
そうしたら、もっともっと楽しめただろうに。
「面白くないんだって・・・」と思いながら読まれるパロディ物ほど可哀想なものないと思うんだけど。
どうしてこの2つの解説文を、モダンガールの後ろに置いてくれなかったのか!!
読後に、「バークリーにしては???」と思った人が読んで納得する分にはいいんじゃないでしょうか。
編者の方には、もっと繊細な心遣いをお願いしたい。

※別訳:ハヤカワ・ミステリ「シャーロック・ホームズの災難[上]」に収録の『ホームズと翔んでる女』も読んでみた。→感想

 ☆☆☆

文藝春秋 P.G.ウッドハウス選集Ⅱ「エムズワース卿の受難録」の巻末付録
2005年12月15日 第1刷
編訳者:岩永正勝・小山太一

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プリーストリー氏の問題-晶文社

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Mr.Priestley's Problem
-妹に-

舞  台-オクスフォードシャー ダフリー村
テムズ川河畔のコテージ 4月上旬
発  表-1927年 79年前
A.B.コックス-34歳

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<あらすじ>
食事の後、犯罪者の心理について討論し続け 自分を仲間はずれにする知人達に、「そんなにその男の行動が知りたいなら、殺人を仕組んで調べてみたらいいじゃないか。」とジョージは大声で叫ぶ。
この提案はあっさり受け入れられ、ボーっとした友人マシュー・プリーストリー氏が実験対象に決定。
ジョージの妹ローラがプリーストリー氏を犯行現場まで誘導、素人芝居が順調に進行中、空砲を聞きつけ本物の警官が登場し、ローラとプリーストリー氏に手錠をかけてしまう。2人は手錠のまま逃亡、本件は、謎の皇太子殺人事件として新聞紙上を騒がせることになり・・・

 ☆☆☆

この作品は、"ミステリ風ユーモア小説"だそうで、架空の殺人事件は出てくるものの、トリックや犯人を推理するものではない。が、テンポがよく、とても楽しめる小説だった。
狂言の首謀者 ガイ・ネズビットとパット・ドイル そしてローラの姉ドーラの度を過ぎたふざけブリ、ガイの妻シンシアの出来過ぎブリ、マトモな登場人物は、ジョージとプリーストリー氏のみ。

手錠をはめられたローラとプリーストリー氏の逃避行は、とてもワクワクした。小説でこんな風に感じるのは久しぶりだ。
007と美女の「ツーといえばカー」と真逆で、さえない中年小男とはねっ返り娘がどう一晩過ごすのか、読み進めていくのがとても楽しみだった。
皆から虐げられている地味キャラ ジョージの描き方もいい味出してるし、
逃避行中の2人 と
殺人現場?で警察を翻弄しようとするガイ&パット 
の2シーン同時進行で、まったく飽きさせない。
推理小説じゃないのに、バークリーにこんなに楽しませてもらえるとは思わなかった。意外な喜び♪

実験対象のプリーストリー氏にとっては"とんでもない"設定であったが、善良で教養もあるが無欲で見栄えのしない男は、こんなことでもなければ美女に自分の内面のよさをイヤというほど分からせることが出来ないわよね。
ま、良かったね。(*^-^)b

 ---

一つ気になったのは、フリーライターのパットが 目先の金銭のために、この架空の殺人事件の記事で新聞社から一儲けしたこと。当然ブラックリストに載っちゃうんだけど。
そんな、将来的に傷になる様な頭の悪いことするかなぁ。
ありえないことだらけで面白いんだけど、この手のありえなさは 自分的には受け入れにくい。
みんな、ハッピーエンドにしなくてもいいと思うけどな。
あと、シンシアは出来過ぎ。こんな23歳がいたらお目にかかりたいよ。

この作品は、妹さんに捧げられているようですが、
外見に惑わされず、プリーストリー氏のようないい男を捜せ!ってことなんでしょうか?

<ジョージの妹ドーラとローラについての説明>

『ミス・ハワードのどちらか一方でも目にしたら、男らしく胸をふくらませて、男らしく自らを励まし、男らしい口調でこうつぶやくだろう。「ここに、僕のことを神様でも見るような目で見ているいたいけな女性がいる。そうじゃないと言えるか?たぶん僕は神なんだ。このか弱くて可愛い女性にあんなふうに見つめられたら、自分が神だと考えないわけにはいかないじゃないか。槍と鎧を持ってこい!ドラゴンはいないか?ドラゴンがいないならネズミでもいい。とにかく、このお麗しい内気な娘を何かから保護するのは明らかにぼくの務めだ。しかも直ちに
そして20分後、彼が内気な娘の興味を惹きつけた時になって、娘の言葉は額面通り受け取っていいものだろうか、まったく異なる内容を伝えようとするもので、ひょっとしたら男の自尊心という大きな風船に針を刺すものではないのかと疑いながら後悔することになるのだ。彼が娘の興味を充分惹きつけなかった時には、この辛辣な氷の塊のような女性が、自分自身の面倒はもちろん、世事万般をこなすことはできないなどと、どうして想像したのかと考えて、さらに内心忸怩たる思いに駆られただろう。ハワード姉妹は精一杯上品に言って、"刺激的"と称されるような女性達だった。』P-27

笑っちゃうね。

<一番良かったシーン>

プリーストリー氏がローラの手に100ポンドの札束を押し込んで、
「きれいな物をたくさん買っておいで。」

いいひとだ。

 ☆☆☆

晶文社ミステリ 2005年1月15日二刷
訳:小林 晋

ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎-晶文社

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Roger Sheringham and The Vane Mystery
-チャールズ・ファラー夫妻に-

舞  台-ハンプシャー ラドマス村 5月頃
(ウィッチフォードの9ヵ月後)
探  偵-ロジャー・シェリンガム(36歳)/モーズビー警部
間抜けな助手-アントニイ・ウォルトン(従弟)
発  表-1927年 79年前
アントニイ・バークリー-34歳

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<あらすじ>
従弟アントニイの誘いで旅行へ出かけようとしていたロジャーに、クーリア紙編集長から電話がかかる。ラドマス湾で起きた転落事故現場に、ヤードの腕利き警部モーズビーが派遣されたとの情報を受け、殺人事件の可能性を感じた編集長は、ウィッチフォードでの功績を買ってロジャーに特派員として現地に赴くことを依頼。
旅行先を、あっさりハンプシャーに変える2人。
モーズビー警部が泊まる宿屋の部屋を全部借り切って、他社の記者を牽制し、警部と情報合戦・推理合戦を繰り広げるロジャー。
一方アントニイは、被害者の従妹で第一容疑者の美人マーガレットに急接近。┐( ̄ー ̄)┌
二転三転の推理の末、警部とロジャーが逮捕に向かうと、そこには容疑者の死体が・・・

 ☆☆☆

ほら、ぼくには間抜けな助手が欠かせないじゃないか。名探偵っていうのはそういうもんだから。」P-20
という理由で同行させられたアントニイは、期待をを遥かに上回る間抜けぶり。
上の台詞はジョークでも何でもなく、一点の曇りもなく心の底からそう思っているんだろうなロジャー。
また、モーズビー警部の 表面は穏やかながら、決して警官としての職務を忘れない毅然としたロジャーの”扱いっぷり”はお見事。
ロジャーをじらして、ブラックハウンドの鳴き真似をさせたり、
私たちの仕事は、空想ではなく事実を扱うことなのです。」P-151という単刀直入なイヤミ(事実)の数々が、胸をスカッとさせてくれる。

ので、小説としてとても面白い。
が、推理小説としてはどうなのかなぁ~と思った。
理由は、「正解が出ていない」からである。推理小説の定義はよく分からないが、自分的には 必ず最後に犯人が明確になって答え合わせのようなものがある-ように思っていたので。
警部によって、犯人だろうという人は指摘されるが証拠不十分で逮捕されないのだ。バークリーは、

・探偵(特にロジャー)の直感・人を見る目はあてにならない。
・探偵(同 上)がいなくても、警察が十分事件を解決する。

に加えて、現実同様
・事件の全容が必ず明らかになるわけではない。
・犯人が必ず罰せられるわけではない。

ってトコまで、探偵小説の定石を皮肉っているみたい。

2件目の殺人事件を読んだ時、「翌朝逮捕に行くことを知っていたのは誰か?」消去法で、犯人はあの人しかいないと思ったのだが、すぐにロジャーが大変意外な犯人を理詰めで指摘する。
「ほほー」と思っていると、更にそれを警部がどんでん返して、結局犯人は…。
まー、あの人が犯人でいいんだろうけど、ハッキリとさせた書き方じゃない。
直前に読んだ「ハムレット復讐せよ」と、流れがとても似ている。
アマチュア探偵がいかにもな推理を披露した後、本職警官が真相を究明するという。
ただし、ハムの方は、犯人は疑問の余地はないし、ある意味罰せられる。そう、バークリーはわざと"疑問の余地"を残しているんだろうね。
こんな風に、少しもやもやした気分で読み終ろうとしているワタクシに、警部の最後の言葉が。

「問題はどこにあるのか、おわかりになりますか?」と親切につけ加えた。「探偵小説を読みすぎるんですよ。』P-305

ホント、人をくったオッサンだよっ!
↑バークリー






「ハムレット復讐せよ」のすぐ後に読んだので、読み易かった~。だって、登場人物全部で11人だよ!探偵側も入れて。(ハムは容疑者だけで31人…)登場人物は1/3なのにページ数に大差ないということは、ほとんどが"ロジャーのしゃべり"ってことか。

ロジャー・シェリンガム三作目にして、やっとワタクシにも"バークリーがロジャーにさせたいこと"が体に馴染んできたよ。

ウォルトン君が、50回目の天啓を受けるまでには結婚されていることを祈念し、感想を終わります。

 ☆☆☆

後で、「どんな人だっけ?」となる自分のための備忘録。

<モーズビー警部>
-ヤードの大物。重大な殺人事件にほとんど関与-
「人が名探偵と聞いて想像するイメージとはかけ離れていた。その顔は剃刀どころか、手斧とも似ても似つかない(あえてそうしたものに喩えるとするならば、バターナイフといったところだろう)。その眼差しは幼少の頃から鋭くて有名だったということもなければ、人に厳しい意見をたたきつけることもない-ただ普通に話すだけだった。遠まわしな説明はやめてはっきり言おう。警部は何の特徴もないごく普通の外見で、ごくごく普通に振る舞う男だった。
さらに細かなことを説明すれば、がっちりとした体つきで、両端が垂れ下がった濃い白髪混じりの口ひげをたくわえ、ずんぐりとした不器用そうな指をしていた。その顔には常に邪気のない温和な表情を浮かべていて、陽気で朗らかな性格で知られていた。そしてどんな相手にだろうと、決して敵意を抱くということはなかった。」P-36~37

<アントニイ・ウォルトン>
-ロジャーの従弟 25歳-
「オックスフォードでの学生時代はラグビーの対抗戦選手としてならしたアントニイは、肩幅が広いがっちりとした体格で、人柄は抜群だが頭の回転という点では難があった。今では、平日は一応父親の会社に通っているが、ただ座っているだけで仕事らしきことはせず、毎週末の土曜日にハーレクィンズというチームの選手としてラグビーの試合に出ることだけを楽しみにしていた。」P-19

 ☆☆☆

米題:The Mystery at Lover's Cave ; Vane Mystery

晶文社ミステリ 2003年4月20日初版
訳:武藤崇恵

ウィッチフォード毒殺事件-晶文社

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The Wychford Poisoning Case [英国版の表紙]
-最高に愉快な作家、エリザベス・M・ディラフィールドに-

舞  台-ロンドン近郊ウィッチフォード 6~9月
探  偵-ロジャー・シェリンガム(35歳)
発  表-1926年 80年前
アントニイ・バークリー-33歳

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<あらすじ>
イギリス ウィッチフォードの実業家が砒素の大量摂取で死亡。
動機(浮気発覚)・物証(砒素所持)からフランス人若妻が逮捕される。
アマチュア探偵ロジャー・シェリンガムは、現場にあった砒素が大量過ぎる事に疑問を持ち・・・

アマチュア探偵ロジャー・シェリンガム シリーズ長編第2作目。
このシリーズは、1925年~1934年の10年間に10冊、年1冊のペースで発表されている。
ワタクシが1作目レイトンコートを読んだのが昨年、で今年が2作目・・・。読むのも年1冊ペースにならないように頑張りますわ。

シェリンガムは小説家で職業探偵ではない。
バークリーは、ホームズに代表されるような"絶対間違えない探偵"・物的証拠偏重主義を排し、心理に重きをおいた探偵小説を意図していると 序文で書いている。作中で「私が関心を持つのは、その犯罪がなされた理由なのである。」と言うようなことを何度もシェリンガムに言わせている。
だから、猟犬のように『真実へまっしぐら!』なホームズと違って、1つの証拠・証言から 心理的可能性を柱に多くの仮説を立てるし、真相に辿り着くまでいっぱい間違っていっぱい回り道するのである。

だいたい、シェリンガムはウィッチフォードで起きた事件とは何にも関係無いんである。
┐( ̄ー ̄)┌ やれやれ ┐( ̄ー ̄)┌
新聞で読んで「新聞~世論が犯人と決め付けている人」が犯人とは限らないと言って、勝手にウィッチフォードに調査に行き、挙句にフランスまで証拠固めに行っちゃうんである。人気小説家でなければ出来ない時間の使い方だね・・・

妄想が暴走するシェリンガムのお供は、前回同様 ぼーっとした友人アレック・グリアスンと、ウィッチフォードに住むアレックの従妹の娘シーラ・ピュアフォイ嬢。シーラは、色っぽい未亡人(=暖房の効きすぎた閨房の黒いランジェリー)と比較して『荒れ野の小さなハイキングシューズ』と評される、お転婆な19才。
探偵助手としては、アレックよりシーラの方が(地元民という有利な点を除いても)よほど優秀である。また、捜査よりも自分のデートを優先する冷静さも持っている。
だって、暇人のオヤジ達が 誰に頼まれてもいないのに勝手に探偵ごっこをしているだけなんだもん。
アレックは、ワトソン先生同様 変わり者の友人の奇行に ニコニコ付き合う忠犬キャラ。実際、シェリンガムとシーラに犬扱いされているけど。ぷぷ
主人公探偵のパートナーの職業は「医者」「弁護士」「警察官」がお決まりだが、そのどれでもない。ほんっと役には立ってないんだよ。忠犬じゃなくて駄犬か?


1889年に実際に起きた毒殺事件-フローレンス・メイブリック事件と全く同じ設定。作者バークリーが、過去の犯罪事件を研究して真相を突き止めた!という事ではなくて、一つの設定からいくつの仮説が引き出せるか?の頭の体操らしい(解説より)
現実の事件の結末は、第一容疑者が"まんま"有罪になったが、無罪放免の嘆願書が国中から集まり、減刑されて15年後には自由の身になったそうな。

モチロン、小説の結末は違う。
シェリンガムの、あっちこっちぶつかりまくる闘牛の牛-みたいな活躍の末、ものすごーく意外な結論が導き出される。
物凄く意外なんだが、推理小説としては物凄くつまんねぇ結末?

ただ、”行動・結果は、それを行った人の心理から発生する"と強く主張するシェリンガムは、通常見落とされがちな『亡くなった人の生前の心理』も、見落とさずに考えたところが偉いと思うよ。
こう思えるのは、今の年齢だからだと思う。
ムダ(自分の興味の無い物)を受け入れられず、鮮やかなトリック・意外な犯人にのみ価値をおいていた学生時代だったら、"つまらない推理小説"だと思ったかもしれない。
探偵シェリンガムも
すっげー うぜぇ
と、イギリス人ごと嫌いになってたと思われ。(確実)

今は、シェリンガムが"いろいろ考える"過程を一緒に楽しめるし、
6032101.jpgしょうがないわね、ロジャー
と、シェリンガムが失敗することが返って愛嬌があると思えるようになったので、今の私には面白い作品だった。

だから、ホームズ系の『ズバッと解決!』がお好きな人には合わないかもしれないので、おせっかいなうぜぇ一般人の妄想と付き合ってやってもよいという心の広い方にお勧めする。

シェリンガムがうざいのはこの作品に限ったことじゃないでしょうが、「毒入りチョコレート事件」みたいな万人受けする作品とは違うから。
(あまり おススメになっていない気もする…遠い目)




<気になったセリフ>
シェリンガム→アレン夫人(容疑者の一人)について語る
夫を寝取られたので「殺人の動機がある」と疑っていたが、そうではないと判って。

彼女は夫君をありのままに受け止めて、彼が何をしても許す。
ほんとうに賞賛に値する人であり、細君だ。
ぼくは彼女が大好きだね。
男を神の作りたもうたままに受け入れて、自分好みに作り変えようとしない女性はめったにお目にかからないが、彼女は間違いなくそのひとりだ。
じつにたぐいまれな才能だよ。

P-317より






犬が。



 ☆☆☆

ロジャー・シェリンガム(Roger Sheringham) 1891年生まれ

アントニイ・バークリー(Anthony Berkeley Cox) 1893年7月5日生まれ

晶文社ミステリ 2002年9月30日初版
訳:藤村裕美


早く読め→自分

ブログタイトルの元にしている毒チョコの作者 アントニイ・バークリー(Anthony Berkeley)は、フランシス・アイルズ(Francis Iles)他名義でも作品を書いているが、3つか4つしか読んだことがない。
どれも良かったので、サイトで作品一覧など探してみた。

全体の8割ほどは、日本語で新刊で購入できる。更に検索したところ、池袋のジュンク堂はその全ての在庫があることが判る。偉いぞ クドウジュン

会社帰りにジュンク堂へ立ち寄り、全部購入。とても持って帰れないので宅配便で送ってもらう。
翌日午前中着・送料無料・喫茶お飲物無料券贈呈 偉いぞ ジュンク堂
ま、あんなに買ったんだからな。

執筆した順番に読んでみようと思い、送られてきたダンボール箱の中で、執筆年順に並べ替える。
乱歩も横溝正史もぐしゃぐしゃに読んでいるので、
一度、気に入った作家の作品を、何か系統立てて読んでみるのも面白いのではと思ったのだ。

というのは、去年の秋の話…{/hiyo_shock2/}

買い占めて年代順に並べたら、気がすんでしまいダンボール箱がそのまま本箱のような状態で放置。
今年の夏、やっと第1作目「レイトンコートの謎」を読んだような体たらく…

どうもいろいろ気が散っていかん。
これでは全部読むのは何年後なのだ。
このブログを機に、加速をつけねば。

プロローグ

ブログタイトルの元
「毒入りチョコレート事件」The Poisoned Chocolate Case
は、イギリスの推理作家アントニイ・バークリーの作品の1つだ。

私の少ない読書歴の中で、一番好きな推理小説だ。
この作品には思い入れがあるので、また別に書きたいと思う。

推理小説の薀蓄は多々あるが、自分の基準は
「事件(大抵の場合殺人)の動機・背景」が納得できるもので無いとイヤ。

突飛な情景やトリックを表現したいがために、大した動機も無く事件を起こされると、コンビニのゴミ箱(最近駅にゴミ箱がないので)に投げ捨てていきたくなる。

十分な動機・背景と、偶然など当てにしない緻密な犯罪が好き{/heart_pink/}
この視点で今のところ一番好きなのが、アントニイ・バークリーなのだ。

一方で、横溝正史のおどろおどろしさや江戸川乱歩の摩訶不思議な雰囲気に
どっぷり浸るのも好き
オンナゴコロは複雑だ。

小説で読んだものを映像で見る⇔映像で見たものの原作を読むのは、とても楽しい。
頭が悪いので、建物や地理的説明が、映像で見ないとよくわからないというのもある。

アントニイ・バークリー作品の映像はまだ見つけられないが、江戸川